北緯43度から

多分世界の第三者

北緯43度から

この頃、夕方過ぎが朝になってきた。

今日は昨日の23時に起きた。

ポツポツと聞こえる雨の音が静かな目ざましとなった。

夜は眠れない。むしろ神経が活き活きとしている。

PCとユーチューブにかじりつく6時間。

時々寝ようともするが、すっかり覚醒してしまって眠れない。

午前5時を過ぎた頃、家の廊下からぼんやりした空が見えた。

雨はすっかり止んだらしい。

「散歩に行こう。」

6時間部屋で座りっぱなしでだるくなっていたし、雨もいつの間にか止んでいた。

外は傘なしで歩けそうだ。

 

道路は雨の名残りがあり、乾き始めていた。

水たまりは淡く深い空の青を反射していた。

上を向いても下を向いても空がある。

中秋の名月から1日経った朝の月は、白くなり姿を消し始めていた。

今日の役目を終えようとしているのだ。

広すぎる空にしてポツンと見える月は、少し物悲しくも懸命に見えた。

 

ここに住んで2ヶ月が経つが、あまり周辺を歩いたことがない。

いつも歩かない道を歩いてみる。

何も考えずにただ道を歩いてみた。

今日の天気予報は見ていないが、きっと晴れだろう。

 

このあたりの住宅地は、首都圏の住宅地と比べると広く幅を取っている。

家同士が密集しておらず、適度な空間かそれ以上に余裕がある空間がある。

この近所は狭苦しさがなく、歩くだけでも自由に生かされている気がした。

 

面白いスタイルの家が多い。

雪対策からか、いくつかの家は玄関前をガラス戸で覆っており、黒いフレームで囲った見た目がどこかレトロな雰囲気を醸し出している。

家の側面は突き出したベランダがあるものが少なく、大抵のっぺりとしている。

屋根や色、それぞれの家が戸々に色味を出していて活き活きとしている。

何気ない角地もフィクションのようで、歩くだけで楽しかった。

 

散歩の途中で、カタツムリとアリとカラスに会った。

小さなカタツムリは歩道の上にいた。雨だったからきっと道端を散歩していたのだろう。

アリは1匹、夜勤だったのか忙しく歩きまわっていた。

カラスは3羽、油のせいか、青い光沢を放ち私の家の前にいた。

この生き物たちは、あと1ヶ月もすればどこにいってしまうのか。

雪の中をどのように過ごすのだろう。

移住者の私よりも、寒さを生きる術があるのだろうか。

 

散歩をしている人がちらほら。

犬の散歩をしている人がちらほら。

日曜日の朝6時なのに仕事に向かっていると思われしき人もちらほら。

大きな荷物を持って行き先不詳の人も1人。

そうした人とすれ違い、世界には他にも人がいるんだと安心感を覚える。

多い勢の人とすれ違うのは疲れてしまうが、朝の静けさの中、時々人とすれちがいながら歩くのは心地いい。

夜は夜で世界に隠されたかのような静けさの中、独りでいる安心感がある。

きっと夜には終わりがあるからだろう。

朝は朝で世界が色づき始め、誰かがいる安心感がある。

きっと暖かさの中にいたいからだろう。

 

午前9時に、この街の主要駅に出かけた。

適度にお出かけをしてお店で可愛い化粧品を見ては、「自分には似合わないだろう」と満足して帰ることがある。

お米と味噌汁が食べたいと思った。

ふと入ったチェーン店のお店で、まぐろのどんぶりと味噌汁のセットを注文する。

店員さんが「ただいまポストカードを配っています。」と、菊の絵が描かれたポストカードをくれた。

友達が8月にくれたポストカードの返信がずっとできずにいたので、ようやく返すことができる。

今日の1日を添えて返信を書いた。

 

ここは日本、北緯43度。

美味しいご飯屋さんはいくつか見つけたが、友達は1人もいない。

今日のような朝を何度も迎えられるのであれば、もう少し頑張れると思った。